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「睡眠負債」という言葉。睡眠不足による影響は、まるで借金のように蓄積し、それを返済しないでいると、がんや認知症など様々な病気のリスクを高めてしまうと言います。

睡眠は疲れた体と心をメンテナンスして、エネルギーを補充する大切な時間。そのため、よく眠れない状態が続くと疲労が溜まり、体に様々な不調が現れますし、知らず知らずのうちにパフォーマンスの低下につながる危険性もあります。

適切な睡眠時間は6~8時間が目安とされています。しかし、実際は年齢や体質、活動量などによって個人差があるものなので、睡眠時間が短くてもすっきりと疲れが取れ、生活に支障がなければ特に問題はないです。

一方、睡眠時間の長さに関わらず、寝つきが悪い、熟睡できないといった状態が続き、体の不調や日中の眠気などを感じる場合は「不眠症」を考えます。不眠の主な症状には「入眠困難」「中途覚醒」「早朝覚醒」があり、その原因は加齢やストレス、環境の変化など様々です。

中医学では、精神と関わる「心」「肝」の不調が不眠を招くと考えます。また、精神の安静を保つ「血」も大切な要素ですが、「心」「肝」は「血」の状態とも関係しているため、睡眠と関わりの深い臓器と言えます。その他、脳の働きや老化と関係する「腎」の不調も、不眠を招く要因となります。

不眠症は重い病気ではありませんが、日中の眠気やダルさ、集中力の低下などは日常生活に大きく影響します。症状が長期化すると完全もしにくくなるので、不調に気付いたら早めの対処を心掛けましょう。

寝つきが悪い 入眠困難

布団に入っても寝つきが悪く、眠るまでに時間がかかるタイプ。不眠症の中で最も訴えが多く、中医学では主に「肝」の不調から起こる症状と考えます。

「肝」は、精神の安静を保つ「血」を貯蔵し、ストレスをコントロールする働きがあります。そのため、「肝」の機能が低下すると不安感やイライラなどの精神不調が起こりやすく、なかなか寝付けなくなってしまうのです。

このタイプは過剰なストレスで「気」の巡りが停滞し、体内に熱がこもりやすいことも特徴。熱がこもるとイライラや興奮を招きやすいので、こまめなストレス発散を心掛け、「肝」の働きを整えましょう。ハーブティーやアロマなど、香りを上手に使って気持ちをリラックスさせるのもおススメです。

気になる症状として、寝つきが悪い、初期の不眠症、イライラ、怒りっぽい、憂うつ感、ほてり、のどの渇き、のどの閉塞感、胸の詰まり、舌の乾燥、舌辺が赤い…など。

菊の花、ジャスミン、ラベンダー、ミント、しそ、みかんの皮、サンザシ、酢、レモン、梅など、香り、酸味、涼性の食材で「肝」を整えましょう。

漢方では、温胆湯、瀉火利湿顆粒、加味逍遙散、逍遥顆粒、酸棗仁湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、抑肝散、シベリア人参、ミンハオなど。

夜中に目が覚める 中途覚醒

眠りが浅く、夜中に何度も目が覚めてしまうタイプ。夢が多いことも特徴で、中医学では「心」の不調から起こる症状と考えます。

「心」は、精神の安静を保つ「血」を全身に巡らせる臓器。また、「心は神明を蔵す」とも言われ、精神状態や脳の働きとも密接に関わっています。そのため、体内の「気」や「心」の働きが弱くなると、脳の機能に影響し、不安感や悩みなどで熟睡しにくくなってしまうのです。

このタイプは加齢と共に起こりやすくなるので、更年期以降の人は気を付けて。日々の食事でバランス良く栄養を取るためにも、「脾胃(胃腸)」を元気に保つことが大切です。

気になる症状として、眠りが浅い、熟睡できない、夜中に目が覚める、夢が多い、慢性的な不眠症、不安感、動悸、めまい、物忘れ、冷え…など。

黒砂糖、黒豆、ぶどう、プルーン、クコの実、ナツメ、卵、小麦、ゆり根、人参、ほうれん草、カツオ、レバーなど、甘味、温性の食材で「気」「血」を補いましょう。

漢方では、心脾顆粒、酸棗仁湯、天王補心丹など。

朝早く目が覚める 中途覚醒

早朝、予定の起床時間よりずっと早く起きてしまい、その後眠れなくなるタイプ。中医学では、主に「腎」の不調から起こる症状と考えます。

「腎」は、生命エネルギーの源である「精」を蓄える臓器で、脳や五臓六腑の働きを根本から支えています。そのため、「腎」が衰えると脳や全身の機能が低下し、睡眠も上手く取れない状態に。また「腎」は潤いの源でもあるため、「腎」が弱くなると潤い不足で体内の熱を十分冷ませなくなることも。その結果、精神を司る「心」の熱が過剰になり、精神不安などで睡眠障害が起こりやすくなります。

「腎」は加齢と共に衰えていくため、このタイプは高齢者に多いことが特徴です。「腎」を強くすることは老化予防にも繋がるので、栄養を十分取る、体を冷やさないなど、日頃の積極的なケアを心掛けましょう。

気になる症状として、早朝に目が覚める、物忘れ、夜間頻尿、腰痛、耳鳴り、のぼせ、冷え、疲労倦怠感…など。

黒ごま、黒豆、黒きくらげ、きのこ類、山芋、海藻類、クルミ、栗、クコの実、ナマコ、エビなど、木の実、黒色、粘りのある食材で「腎」を補いましょう。

漢方では、天王補心丹、八味地黄丸、杞菊地黄丸、瀉火補腎丸、亀鹿仙など。

暮らしの養生

まずは、生活リズムを整えましょう。日中にしっかり活動することで、夜の安静に繋がります。

日中はいいですが、夕方以降のカフェイン摂取はNGです。寝る前であれば鎮静効果のあるハーブティーがおススメです。アルコールは寝つきを良くなりますが、量は控えめに。飲み過ぎると眠りが浅くなります。

夕食は寝る2時間前までに。食べ過ぎて胃腸に負担をかけないようにしましょう。適度な運動は質の良い睡眠に繋がります。週2~3回でも良いので、無理なく続けられる運動を習慣にしてください。

寝る前の入浴で体を温めて。心身をリラックスさせるためにも、ぬるめのお湯にゆっくりつかりましょう。就寝の30分~1時間前に入り、体温が下がり始めたタイミングで床に就くのがベストです。