こんにちは。
先日、薬剤師会の症例報告会がありました。
漢方を絡めた話をすることになったのですが、「この病気にこの漢方」というものではないと思っているので、何をどう伝えたらいいのか、結構悩みましたが、誰でも役に立つ風邪の話をさせていただくことにしました。
その内容をまとめてみました。
「風邪」とは、正式には「かぜ症候群」と呼ばれるもので、上気道炎のことを指します。最近では下気道(気管、気管支、肺)にまで広がるものを総称することもあり、その90%近くがウイルスだと言われています。
風邪による鼻水や喉の痛み、発熱などの症状は、身体の防御反応によるもの。これらは不快な症状であるため、一般的には総合感冒薬を用いて症状を抑え、早く寝るなど安静にして治します。
解熱鎮痛剤 | アセトアミノフェン |
NSAIDs(非ピリン系):イブプロフェン、エテンザミド、サリチルアミド | |
NSAIDs(ピリン系):イソプロピルアンチピリン | |
抗ヒスタミン薬 | クロルフェニラミン、クレマスチン、マレイン酸カルビノキサミン、プロメタジン、ジフェニルピラリン |
鎮咳薬 | 麻薬性:コデイン |
非麻薬性:デキストロメトルファン、ノスカピン、チぺピジン | |
去痰藥 | アンブロキソール、カルボシステイン、ブロムヘキシン、グアヤコール、グアイフェネシン |
気管支拡張剤 | メチルエフェドリン |
血管収縮剤 | プソイドエフェドリン |
抗炎症薬 | トラネキサム酸 |
抗コリン薬 | ヨウ化イソプロパミド |
中枢興奮薬 | カフェイン |
ビタミン | アスコルビン酸、チアミン、リボフラビン、ヘスペリジン |
総合感冒薬に含まれている成分ですが、あくまでも対症療法です。
一方、漢方からみた風邪。「風」の邪と捉え、「ふうじゃ」と読みます。
主に外界の「風」という邪気が、皮毛、口、鼻などの体表面(表)から侵入しようとして、皮膚や皮下組織、皮膚に近い筋肉や関節に留まっているために引き起こされる症状。
正気(免疫力)と邪気(ウイルス・細菌など)の戦いです。正気が邪気に負けたとき、風邪の症状として現れます。基本的に体表面で起こる症状(表証)で、悪寒、悪風、頭痛、発熱、節々の痛みなどが特徴です。
検査機器や血液検査などがない時代、五感をつかって情報収集をしていました。
- 望診:患者の顔や目、皮膚、態度、舌など直接肉眼で観察する方法。
- 聞診:耳と鼻による観察法。
- 問診:問答による診察法。
- 切診:触診のこと。
これらを「四診」と言いますが、「四診」から得た情報をもとに、弁証という「モノサシ」を使って診断します。
最も基本的な弁証が「八綱弁証」で、「表裏」「寒熱」「虚実」「陰陽」の8つの基準で判断する方法です。病気の位置が浅いか深いか(表裏)、病気の性質が寒性か熱性か(寒熱)、過剰による病気か不足による病気か(実虚)、陰陽は全体のバランスを見るものです。
風邪で見た場合、風邪は体表で起こっているので病気の位置は「表」。ゾクゾク寒気がする場合は「寒」、寒気は少なくのどが腫れて熱っぽい場合は「熱」と判断します。性質が「寒」だった場合、汗が出ないのは毛穴を閉じる力がある=体力がある…ので「実」。一方、汗が出るのは、汗を閉じる力がない=体力がない…ので「虚」。
つまり、風邪が「表寒実」タイプであれば、汗をかかせて治す葛根湯を主に用いる。「表寒虚」タイプであれば、体力をつけ、体表部の抵抗力を強めて治す桂枝湯を主に用いる。
一方で「表熱」タイプの場合は、抗ウイルス、抗菌のある生薬を用いて治す銀翹散などが主に用いられます。
このような方法で、風邪を分別して、そのタイプに合った漢方薬を選択するわけです。
風邪に使われる漢方薬って、色々と種類があります。
ツムラのホームページを見てみると、風邪の治療で用いることの多い漢方薬がありました。
急性期 | 実証 ↓ 虚証 | 麻黄湯(体力充実して、寒気があり発熱、頭痛、咳がある方の風邪、鼻かぜなど) 葛根湯(体力中等度以上の方の風邪の初期(無)、鼻かぜなど) 小青竜湯(体力中等度又はやや虚弱で、うすい水様のたんを伴うせきや鼻水がでる方の風邪、鼻炎など) 桂枝湯(体力虚弱で、あせが出る方の風邪の初期) 麻黄附子細辛湯(体力虚弱で、手足に冷えががあり、ときに悪寒がある方の風邪) 真武湯(体力虚弱で、冷えがあって、疲労倦怠感がある方の感冒など) 香蘇散(体力虚弱で、神経過敏で気分がすぐれない方の風邪の初期など) |
慢性期 | 実証 ↓ 虚証 | 麻杏甘石湯(体力中等度以上で、せきが出て、ときにのどが渇く方の感冒など) 柴胡桂枝湯(体力中等度又は虚弱で、ときに微熱・はきけがある方のかぜの中期から後期の症状など) 竹茹温胆湯(体力中等度の方のかぜ、回復期に熱が長引いたり、せきやたんが多いものなど) 補中益気湯(体力虚弱で、元気がなく、胃腸の働きが衰えて、疲れやすい方の感冒など) |
主に「表寒」タイプに使われる漢方薬中心なのですが、これだとボク自身が分かりにくいので、グループに分けて考えると、5つのグループに分かれます。
解表剤:発汗・発散の効能によって、体表の邪気を体外へ追い出す
麻黄湯、葛根湯、桂枝湯、麻黄附子細辛湯、香蘇散、麻杏甘石湯
和解剤:表と裏の中間(半表半裏)に停滞している場合に用いる
柴胡桂枝湯
去痰剤:痰を除去する
小青竜湯、竹茹温胆湯
去湿剤:体内に停滞した水湿の邪気を除去する
真武湯
補益剤:人体の気血陰陽の不足を補う
補中益気湯
基本的に「解表剤」がいわゆる漢方の風邪薬に当たります。一般的には麻黄湯、葛根湯、桂枝湯がよく使われます。体力のない人に汗をかかせ過ぎると「気」も消耗してかえって弱ってしまうので、体力のない人には発汗力の強いものは使えません。発汗力は麻黄湯>葛根湯>桂枝湯の順です。
小青竜湯は「去痰剤」に入っていますが、「解表剤」としても用います。鼻水ダラダラの風邪、よく花粉症に用いられることが多いと思いますが、水様性の鼻水の場合にだけ用い、黄色いネバネバの鼻汁には用いません。水様性の鼻水は「寒」、黄色いネバネバの鼻汁は「熱」。病気の性質が反対だからです。
排泄物の色は「寒熱」の重要な判断材料です。痰にしても、水っぽい痰は「寒」で黄色い粘りのある痰は「熱」。痰の絡む咳の場合、水っぽい痰が出る咳には小青竜湯、黄色い痰が出る咳には麻杏甘石湯などを用います。
風邪の治療で用いることの多い漢方薬でも、タイプによって合う合わない、使うタイミングなどが違うので、ある程度の漢方の知識が必要であると思いますが、系統だてて考えると、理解しやすいのではないかと思います。